花粉症は、「花粉を抗こうげん原とする鼻粘膜と結膜のアレルギー性の病気」です。アレルギーとは、からだの外から体内に侵入する細菌やウイルスなどを無害化する「免疫反応」が、過剰に作用してしまうこと。花粉をも排除しようとする、過剰な生体防御反応がアレルギーです。アレルギー反応を引き起こす物質を、「抗こうげん原(アレルゲン)」といいます。
花粉症は、ある年突然起こり、日本人の10~20パーセントは花粉症ともいわれています。
花粉症の症状
花粉症の症状は、アレルゲンである花粉が体内に入り込みやすい部分、つまり、鼻や目(結膜)に現れます。具体的には、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目や鼻のかゆみ、目の充血、涙目などで、このほかからだのだるさ、ほてりなどもよく起こります。ひどいときは喉のどが痛んだり、熱が出ることもあります。
花粉症に似た症状
花粉症に似た症状に、次にような疾患があります。原因が異なれば治療法も異なるので、「花粉症かな」と思っても自己判断せずに、診察を受けて適切な治療を始めましょう。花粉症とこれらの疾患を併発していることも考えられます。
- 通年性アレルギー性鼻炎
花粉症と同じアレルギー性鼻炎ですが、花粉以外のもの(ダニやカビなど)がアレルゲンとなって起きるものです。花粉症と違って一年中症状がみられます。 - 血管運動神経性鼻炎
気温の変化などの刺激を受けて、自律神経のコントロールに変化をきたして起こる鼻炎で、アレルギーによるものではありません。比較的くしゃみが少ないのと、中高年女性に多い傾向があります。
花粉症の原因
毎年増え続ける花粉症の患者数。従来は青壮年期の発症が多かったのに、近年では小学生のときに発症する子どもも増え、患者数の増加に拍車がかかっています。
なぜ花粉症になるのか、その確かな理由はわかっていません。戦後各地に植林されたスギが成長し、花粉が大量に飛散するようになったことも一つの原因のようですが、それ以外にも、自動車の排気ガスなどによる大気汚染、乳製品や卵・たんぱく質の過剰摂取によりアレルギーが起きやすくなっている可能性、都市型社会生活によるストレス増大の影響などが考えられています。排気ガス粘膜を過敏にするストレスなどの影響が考えられています。
花粉症になる人、ならない人
同じように花粉にさらされ、同じように生活していても、花粉症になる人とならない人がいます。その違いの一つは、遺伝による体質的なことがあるといわれています。生まれつきアレルギー反応を起こしやすい体質の人は、花粉症にもなりやすいと考えられます。また、長期間にわたって少しずつ花粉の影響を受け続けたり、汚れた空気の環境で長年生活している人は、鼻の粘膜の感受性が高まって、花粉症になりやすくなります。
花粉症を引き起こす植物とその花粉の飛散シーズン
日本人の花粉症の患者さんの多くは、スギ花粉症です。スギ花粉の飛散シーズンは2月上旬からゴールデンウイークにかけてで、毎年この時期には花粉情報がマスコミに流れ、春の風物詩のようになっています。
しかし、花粉症を引き起こすのはスギばかりではなく、ヒノキ(飛散時期は春から初夏)、カモガヤなどのイネ科の植物(おもに夏)、ブタクサ・ヨモギ(秋)などが原因の場合もあります。症状を引き起こす原因がどの植物の花粉かは、血液検査などで確かめられます。なかには複数の植物の花粉がアレルゲンとなっていて、花粉が飛ばない冬場以外はずっと症状に悩まされる患者さんもいます。
重症度を左右するのは、花粉(抗原)の量、からだの中にできている抗体の量と鼻粘膜の過敏性
花粉症の症状の重症度は、鼻や目の粘膜に付着した花粉の量、からだの中にできている抗体の量、鼻の粘膜の過敏性に左右されます。粘膜がより過敏になっていれば、花粉の量が少なくても症状が現れます。
鼻粘膜の過敏性は、花粉症の自覚症状が現れる前、花粉がごく少量飛散している時期から進行し始めます。あるレベルまで粘膜過敏性が進み自覚症状の出たときが、その人の花粉症シーズンの幕開けになります。
きちんと治して今シーズンは快適に過ごしましょう
「花粉症は病に行ったってよくならない」
「花粉症の薬は眠くなるから飲みたくない」
きちんと治療すれば花粉症の症状はかなり軽快するのに、このような誤った思い込みから、治すことをあきらめている人が少なくありません。
花粉症の辛い症状を軽減するポイントを紹介します。今年こそは不快な症状、薬の副作用による眠気に邪魔されない、明るい花粉シーズンを過ごしましょう。
ポイント1先手必勝。シーズン前に治療開始
症状が現れる前に初期治療を始めることで、鼻粘膜の過敏性が抑えられ、本格的な花粉シーズンを迎えても、症状が現れにくくなります。反対にいったん症状が現れてしまうと、鼻粘膜過敏性はすでに進行しているため、治療効果が現れるのに時間がかかります。
スギ花粉は、多くの地域では2月の上旬から飛散し始めるので、2月になったら症状がなくても、一度受診しましょう。
初期療法って何?
花粉が飛ぶ2週間前ぐらいから薬を使った予防治療のことです。予防治療を行うことで「花粉症」にならないというわけではありませんが、症状を軽くしたり、症状が出る期間を短くする効果が期待できます。
初期療法の効果を上げるためには、病院にて受診時に医師に症状を正確に伝えることが大切です。花粉症は人によってアレルギー反応の症状や強さが違います。「抗アレルギー薬」にもいろいろ種類がありますので自分の症状に合った薬を処方してもらう必要があります。
ポイント2処方された薬を指示どおりに服用する
花粉症治療に対する患者さんの満足度を調べた調査では、治療に満足していると答えたのは4人に1人で、残りは不満足という結果が出ています。しかし、その理由を詳しく調べると、医師が処方した薬をきちんと服用していない人がかなりいることがわかりました。
症状がひどいときだけ薬を飲み、がまんできそうな日は薬を飲まない人が多いのです。それでは治療の効果がごく限られたものになるのは当然です。なぜなら、前に解説したとおり、花粉症の症状を左右する要素の一つは鼻粘膜の過敏性で、いったん過敏性が亢進すると、簡単には改善しません。毎日きちんと薬を服用していれば、鼻粘膜の過敏性が抑えられ、花粉が大量に飛散する日の症状も軽くなります。薬は必ず医師の指示どおりに服用しましょう。
なお、患者さんが薬を飲まないのは、副作用で眠気を催すことが多いためと考えられています。しかし最近は、眠気の副作用が少ない薬もあるので、自己判ない薬もあるので、自己判断で薬を飲まないのではなく、まずは医師に相談してください。
また最近の研究では、患者さん自身が自覚しない眠気(作業効率の低下や反射速度の遅延など)という副作用もあることもわかってきました。もし、試験勉強中だったり、車を運転するのであれば、あらかじめ医師に伝えておくとよいでしょう。
花粉症の薬
- 抗ヒスタミン薬
ヒスタミンという、アレルギー症状の直接的な原因である化ケミカルメディエーター学伝達物質の作用を抑え、症状を和らげる薬です。服用後短時間で効果が現れるので、すでに起こっている症状を鎮めるのに有効です。副作用で眠気を催すことがありますが、最近はその副作用が少ない薬もあります。 - ケミカルメディエーター遊離抑制薬
肥満細胞(アレルゲン侵入の刺激を受け、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出する細胞)を安定化させ、化学伝達物質の放出量を減らす薬です。すでに放出された化学伝達物質の作用は抑えられないので、予防的に処方されます。効果が得られるまで1〜2週間かかります。 - 局所ステロイド薬
鼻や目に直接投与して、炎症を抑える薬です。ステロイドはとかく副作用が話題になりますが、内服や注射ではなく、局所に使用するので心配ありません。
このほかにも数種類の薬が、症状に応じて用いられます。薬の効果や副作用の出方は人によって大きく異なるので、少ない副作用で最大の効果が得られる、あなたにぴったりの治療薬がみつかるまでは、ある程度の期間が必要です。その間は、ぜひ医師の診察に協力してください。
ポイント3なるべく花粉にさらされない工夫を
からだへの花粉の侵入をできるだけ減らす、次のような対策をたてましょう。
詳しくはこちらもご覧ください。
- 毎日、花粉情報をチェック
天気予報で花粉の飛散量を確認し、花粉が多い日は防備体制をしっかりと。 - マスク・メガネ・帽子の3点セット
花粉症対策専用のマスクやメガネもありますが、専用のものでなくても効果はあります。 - 帰宅時は衣服をよくはたいて室内へ
洋服についた花粉を家の中に持ち込まないように。 - うがい・洗顔・入浴・シャンプー
喉や目、あるいは肌や髪に付着した花粉を早めに洗い流しましょう。 - 窓を閉めて花粉をシャットアウト
窓から入ってくる花粉の量も相当なもの。風が強い日はとくに窓閉めが大切。洗濯物や布団も、できれば家の中の窓際で干しましょう。 - 水拭き掃除、加湿・空気清浄器
こまめに掃除し、仕上げは水拭きで。室内を加湿すると、空中に舞っている花粉が下に落ちて効果的です。
花粉警報発令!
大量の花粉が飛散する条件
その年の花粉の量は、前年の夏(スギの芽が成長し始める季節)の気象に左右されます。暑くて日射量の多い夏の次の年の春は要注意!
また、気温と湿度、風の強さに左右されます。気温が高く空気が乾燥して風が強い日や、雨が降った翌日は要注意!
ポイント4よく眠って、ストレス解消
寝不足の日は花粉症の症状がひどくなります。シーズン中は睡眠をたっぷりとりましょう。ただし、症状がひどすぎて眠れないという人もいます。そんなときは医師に相談しながら、あなたにあったよりよい治療法を探しましょう。
また、精神的ストレスが症状に影響することもあるので、なるべくストレス解消を心掛けてください。
そのほかの治療法
- 減感作療法
花粉症を根本的に治せる可能性のある治療法です。アレルゲンを症状が出ない程度にごく少量ずつ注射し、徐々にその量を増やしていって、最終的に大量の花粉にさらされても症状が出ないように体質を変える方法です。効果があれば、長期間にわたって花粉症に悩まされることはなくなります。ただし、治療に3年以上かかり、効果があるのは50〜70パーセントの患者さんに限られます。 - 手術治療
病的に変化した鼻粘膜をメスやレーザー光で焼いたり、鼻の中を広くして通気をよくしたり、神経を切断して鼻水を出にくくしたりします。これらは、ほかの治療法では効果がない場合に、専門の病院で行われているものです。
一般社団法人日本臨床内科医会ホームページ引用
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